THE BOTTOM LINE -結論- by コンスタンティン・コマノフ少佐

March 16, 2010 by Konstantin Komarov  
8月に行なわれるシステマ界最大のイベント、「サミット・オブ・マスターズ」。そこにマスターの一人として参加する、コンスタンティン・コマノフ少佐によるトレーニングTipsです。

コンスタンティンはミカエルの高弟の一人であり、心理学の博士号を持ち、サバイバル術など格闘術とは少し毛色の違う方向でシステマの有効性を実証した人物でもあります。

ところで私が07年にモスクワで会った時、コンスタンティンは夏休みの旅行から帰ってきた直後とのことでした。「どこに行って来たんですか?」と聞いたら「カムチャッカ半島を歩いて一周してきた」とのこと。そんな冒険もこともなげにこなすツワモノです。

英語の原文はコチラです。訳しづらいところが所々あったので、英語がわかる方は原文も読まれることをお勧めします。また、一部の用語は独特の意味付けがなされていたので、そのニュアンスを残すためにあえて原文のママとしたことをご理解のうえ、お読みいただければと思います。

THE BOTTOM LINE -結論- コンスタンティン・コマノフ少佐

あらゆる“アート”において、最も重要なものはなんだろうか。アーティスト、ミュージシャン、詩人にとって。それは言葉ではほとんど言い表すことのできない精神状態、“インスピレーション”である。これがなくては芸術ではなく、単なる工作となってしまう。

では、マーシャル・アート(格闘技)における鍵はなんだろうか? 強さ? 技術? スタミナ? もしくは“秘伝”? 私はそうは思わない。それを実証するために、私の見解をシェアさせてもらいたい。

ごく最近、私は幸運なことに高ランクの要人を警護するパーソナル・ボディーガードのチームと仕事をする機会があった。彼らは“クリームの中のクリーム”、つまりは“エリート”だ。全員、アスリートで体重は220ポンド(訳注:約99kg以上)以上、様々な武道を極めた元国際チャンピオンである。そんな者達の中にある男がいた。彼はどんなタイトルもメダルも持たず、ただの農場の青年で、他の者達よりもかなり小さく見えた。彼がどのようにしてこのチームへと行き着いたのか、それは私にとって謎だった。

しかしトレーニング・コースを経て、彼は自身が最も強く、有効で、危険な戦士であることを証明してみせたのだ。私の言う“戦士”とは、スパーリングでのスターではなく、早く、過酷で、苦痛に満ち、恐ろしい、実戦的な訓練でのものを指す。私たちは、チームに対してこの種のトレーニング・コンディションを作らなくてはならない。なぜなら初めはみな自己を過信し、自分が“スーパーパワー”を持っているという幻想を抱いているからだ。

例えば、とても基本的なドリルの一つに“凶暴な群衆”のなか、VIPを通過させるというものがある。群衆は、VIPをつかんだり、叩こうとするだけでなく、ボディーガードの精神(サイキ)のバランスを崩したり、怒らせたり、感情をかき乱したり、おびえさせたりと、感情を弄ぶこともある。群衆はそのボディガードたちのツボをよく心得ていることもあり、その訓練はしばしば神経衰弱や深い“心の傷”の寸前に達するほど、残忍なものとなった。

こうしたプロセスを経て幻想は消滅し、全てがクリアとなるのである。アスリートの精神は、重度のストレスによってギブアップしてしまった。極限に近い状況において、それは自制心を失う傾向があり、恐怖によって揺らいだり、様々な程度の“知覚麻痺”に陥るのである。肉体も特殊技能も彼らを助けることはできない。彼らの身体は筋肉の緊張によって強ばり、その動きは固く不器用で、ぎくしゃくした不明確なものとなって、任務に不適切となってしまうのだ。

その中にあって農場の青年は驚くほど見事に、自らの精神をコントロールした。彼は他者と比較して控えめなサイズと技能ににも関わらず、最も困難な状況からの脱出に成功したのだ。

私は彼に「君のバックグラウンドはなんだ?」と聞いたところ、彼は正直に「子供の頃から家事と農業をやってるだけ。あとは仲間と隣村のダンスホールにいって地元のヤツらとケンカをエンジョイすることかな」と答えた。

この鍵は何か。マーシャル・アートの結論とも言える要素とは何か? 明らかに肉体的なパラメーターではない。あらゆる状況において身体的、精神的な技術を発揮するための、他の何かであろう。その何かが精神だ。より正確に言うなら、身体(筋肉と脳も含む)が最適な仕事をできるようにするための、精神状態である。それはつまり体をリラックスさせ、流れるように、かつ効果的に、自発的に動かすことだ。(つまり、思考よりも早いのである)。この最適な“THE STATE(≒精神状態。 “ゾーン”とも呼ばれる)”は意識を静め、身体を解放し、あらゆる状況に対する自然な反応を生み出す。 


その“THE STATE”が、武道が立脚する土台なのだ。それは人間らしくあることであり、決して動物や化け物のようになることではない。“THE STATE”(自由で準備の整ったからだとして表現される)は、その他の技術、例えば動き、防御、ストライク、レスリング、射撃などを作り上げる土台として容易に使われる)

もちろん、ある者は特殊な試練をやり遂げ、身体的な技術を修得するという、身体から始まる道によって、迂回しつつもその“THE STATE”に到達するだろう。だが、これは長く疑わしい結果を伴う道である。

しばしば、人はテクニックやパターンを学んだり、筋肉を鍛えたり、様々な“奥義”を覚えたりするが、それらは単に、無意識に自信と静けさ、(THE STATE)を得ることで、内面の恐怖を抑えようとする試みにすぎないのだ。この無知のなかを彷徨い、実際に何を探しているのか知らないことが危険な幻想を生み出し、結局、厳しい現実によって壊されてしまう。

肉体は戦いに勝つことが出来ない。だが、精神なら可能だ。この先人の知恵は生身の人間の上にある、霊的な人間について語っている。

“THE STATE”への到達は、力に満ち、揺らぐことのない、人間の核、“THE SPIRIT”と合一する第一歩なのだ。 では、どのようにしてこの“最初の一歩”を踏み出すのか? “THE STATE”とは何なのか? どのようにして見つけ、感じ、保持するのか? どのようにして、戦う時だけでなく日常生活においてもそれとともにあるのか(それはしばしばより重要となる)?

これらの最高の問いは、来るサミット・オブ・マスターズにおいて、皆が理解できるように試みるつもりである。

なぜなら、人は愛と仲間によってのみ適切に成長することができるからだ。

なぜなら、千マイルの道も一歩から始まる。しかし見せることによって、人は知るからだ。

なぜなら、システマとは戦いの技術である以上に、“生命の技術(ART OF LIVING)”だからだ。

ようこそ、“生命”へ!

皆の幸福と愛、そして最高の幸運を祈っている。夏のサミット・オブ・マスターズで会おう。 


真心を込めて

コンスタンチン・コマノフ (サミット・オブ・マスターズ講師 2010年3月16日掲載)

s_R0012557.jpg身体の内側を解すマッサージを指導するコンスタンティン。

所定の手順で腹部を刺激することで、肝臓を中心とする臓器や臓器を包む膜、内部の筋肉、体液の滞りなどを解します。疲労が蓄積した時や、時差ぼけなどで身体の内部に疲労が生じた時などに役立ちます。08年6月モスクワにて。

Konstantin Komarov

- Major in the Special Service Police Force
- Russian Military Reconnaissance
- PhD in combat Psychology
- Professional Bodyguard for Moscow's Elite
- One of the master instructors at Systema Camp